2005年11月15日

小説のHTML化について――p要素と段落

たいていのWEB小説書きさんは気にもしていないことだろうけど、日本語の文章をHTMLでマークアップするとき、改行あるいは形式段落をどう表現するかについて議論している人たちもいる。
小説ページをHTML化するツールを作っている身としては、なかなか気になる議論だが、眺めているうちに「論点がずれているんじゃないか」という気持ちになってきた。

この議論は、大まかには以下の二つの主張に分かれる。
  1. 改行はbr要素でマークアップし、必要なら意味のまとまり(意味段落)をp要素でマークアップするのがよい。
  2. 改行すなわち形式段落をp要素でマークアップし、必要なら意味段落をdiv要素でマークアップするのがよい。br要素は形式段落内の強制改行(会話文など)にのみ使うべき。

また、「どちらも妥当である」とする人、「こちらが正しいのだろうが、現実的にこれもありだろう」とする人もある。

具体的な議論の中身は下記を参照されたい。

●コラム類
「p要素と形式段落」@【文学者β】
http://1st.sunnyday.jp/weblog/archives/2005/p.html

「HTMLにおける「段落」をめぐって」
http://www.asahi-net.or.jp/~wq6k-yn/para.html

「テキストをマーク附けする」@【言葉 言葉 言葉】
http://members.jcom.home.ne.jp/pctips/www/MarkUp.html
「p要素」@【言葉 言葉 言葉】
http://members.jcom.home.ne.jp/pctips/www/Element/p.html

「第6章 正しいHTML文書を書くために」@【小説書きのためのWebページ入門】
http://hc2.seikyou.ne.jp/home/poup400/weblearn/chapter06.html

「行儀良いHTML文書」@【Stardust Crown】
http://stardustcrown.com/reading/stricthtml.html#textdesign

「Web上の小説や口語体」@【こーひーをぶんなぐれ!】
http://cad.lolipop.jp/private/diary/2005/03/200503152100.htm

●質問BBSでの議論
「小説などをwebで表示する際のレイアウト方法について」@【ホームページ作成 Q&A - ホームページ作りの質問掲示板】
http://www.hpj3.com/hpsupport/cbbs.cgi?mode=al2&namber=6558&no=0&KLOG=37

「長い文章だとフレームをはみだしてしまう。」@【TAG INDEX 総合掲示板】
http://www.tagindex.com/cgi-lib/q1bbs/patio.cgi?mode=view&no=1919
「小説サイトでの改行」@【TAG INDEX 総合掲示板】
http://www.tagindex.com/cgi-lib/bbs/patio.cgi?mode=view&no=117

……ざっと拾っただけなので、まだまだこの話題が扱われているところはあるだろう。
読んでいくと「p要素は形式段落である」とする意見がやや優勢のようだ。というか、こちらの意見のほうが「鼻息が荒い」と感じるのは私だけだろうか。
また、物書きタイプには上の1の主張、技術者タイプには上の2の主張が多いように思われる。(統計を取ったわけではなく印象論なので不正確かもしれないが、勘弁していただきたい)
なお、「XHTML2.0ではp要素=意味段落、line要素=形式段落」という点に関しては、どうやら議論の余地はなさそうだ。


さて私見を述べさせていただくと、まず実際に採用しているマークアップ方法は上記の1に近い。p要素はほとんど使わないか、ページ内の小説本文全体を括るためだけに使うことが多い。これは形式段落と意味段落の個人的解釈にも関係しているが、何よりもそちらのほうが簡単に意図どおりの結果が得られるからという理由が大きい。そして「簡単さ」を理由にする背景には、そもそも日本語で書かれた小説においては「節」(場面)以下のまとまりを詳細にマークアップするのはナンセンスという認識がある。


技術文書はもちろん厳密にマークアップされてしかるべきだと思うし、正しいマークアップは有用だ。コラム類も(真面目なものであれば)基本的には同様であろう。
こうした文章の目的は「読み手に書き手の意図を正確に伝える」ことであり、正しいマークアップはその文章を二次利用する際もその意図をゆがめず伝えるために大変重要になってくる。そもそも、この手の文章は書き始める時点で章立てや各段落の内容は決定しているのが本当であり、マークアップもすでになされているに等しい。

対して、小説において文章は「伝達手段」ではなく、「表現」そのものだ。
もちろん、章や節レベルのマークアップであれば「章立て」や「あらすじ」を示すという有用性はあるだろう。また音声読み上げブラウザやテキストブラウザを利用するユーザーに対して、どこが本文であるのかを示すことは重要だろう。しかしそれ以上の詳細なマークアップは小説の本質を伝えうるものだろうか。

小説の持つ、読み手の心に訴える力は、「物語」と「展開」と「文章」の全てが揃ってはじめて発揮されるものである。だから、作者の「文章」は可能な限りそのままの形で読み手に供される必要がある。改行もそのひとつだ。少なくとも私の感覚では、改行をどこでするかという選択は、ある単語をどのような字で表すかという選択にごく近く、どちらも自分の小説を構成する重要なパーツである。特に昨今の風潮では、ある書き手の「個性」に占める、文体(語り口だけでなく、文字や符号の選び方、並べ方も含めた広い意味での)の割合は増加傾向にあると言えるだろう。

そう考えると、小説の本文、少なくとも章の中身は、プレーンテキストでいいのである。あるいはWordで書いているならWordファイルでいい。
しかしWeb上にそのままプレーンテキストを置いてブラウザで読むのでは、改行が改行として解釈されず、かえって表現が損なわれてしまう。Wordファイルは重いし、読めない人も出てきてしまう。
そこで、「Web上で小説を、本質をできる限り損なうことなく(可能ならさらに表現性を高めて)読んでもらう為に」小説を含むページをHTMLマークアップするという作業が生じてくる。
全ての改行を同列に扱うならbr要素を使ってもp要素を使っても問題がない。2行アキ=意味段落の区切り、のような明確なルールがあるのなら、これも簡単だ。しかし厳密に形式段落と意味段落、強制改行を区別しようとすると、文体にもよるだろうが、おそろしく手間がかかる。

技術文書と小説では、同じ日本語のテキストであっても、マークアップの必然性が生じてくるタイミングやその手間がまったく違うのである。同列に並べて論じるのは誤りだろう。
別な媒体での利用が云々というなら、プレーンテキストも併せて提供すればいい。実際に、別な媒体で読みたいというニーズに応じたテキストファイル配布は、多くのサイトが行っていることだ。そもそも個人小説サイトで発表されている小説を、管理人以外が転用し別な媒体で発表するという行為は想定の外にある。無断でやれば明らかな著作権侵害だ。

小説サイトにおいて、HTMLはあくまで小説を世界に公開する手段であって、目的ではない。「正しいHTML」に振り回されて小説を再構成しなければならないというのは、あまりにも本末転倒な行為ではないだろうか。


……つーか正直なとこ、1行1行マークアップしていくのが面倒くさい。改行をbr要素にまとめて変換してしまうほうがどれだけ楽か知れないし、それで用は充分足せるのである。実際に利用されるかどうか限りなく不明なマークアップに、限られた時間を投入するのは勘弁してほしい。その時間を新しい小説を書くことに充てたほうがよっぽど建設的だ。
そうではないというなら、改行をbr要素で表現したために大問題が起きている事例か、「小説の正しいマークアップ」が画期的な長所を発揮した例を提示していただきたいものだ。


以上はあくまで私見であり、唯一絶対の正解と主張するものでも、他人の選択を否定するものでもないことを最後にお断りしておきます。また、ここでは「紙媒体の活字で発表される」のが小説の基本的な形式であるという観点が前提になっているので、「オンライン小説」を「紙の本の小説」とは別の文芸ジャンルと規定した場合は、また別の主張が生まれるかもしれません。
posted by 文月夕 at 14:34| Comment(2) | TrackBack(0) | 雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。面白く拝読しました。

私は1を支持しています。それで小人さんで「1行あけたらpタグに」のリクエストを出した者です(笑)。
意味段落を示すための行の空白をbrで示すのはなんとなく気持ち悪いのです。ソースを読む人限定ですが、著者が「ここが意味的なまとまりなんだよ」ということを暗示的に示すことが出来るような…。
フォントいじり系デザインで使用する空白とは異なる空白だと示したいだけで、非常に自己満足的なものです。

形式段落については、考え方は理解出来ますが、そこまでする必要はないかな、と思っています。というのは、パラグラフの考え方自体がpタグを開発した文化と日本の文化と異なるように思いますので。
読んできた小説をざっと思いかべてみると、欧米の小説はとにかく段落が少ないという印象があります。また学生時代、論文的なレポートを書く際に、パラグラフは「トピックセンテンス(結論を簡潔に示す)・証拠を示す文・結論」という形式に則って書け、という指示を受けました。これを実行すると、確かにパラグラフが「パラグラフ」としての意義を持ってくるように思います。が、同じレポートであっても、日本向けの文の場合はいきなり結論を示すのではなく、まず、じわじわと下地のほうから書いていき、最後に結論を述べよ、というほうがすんなりなじむと聞きました。これらの考え方の違いからすると、段落についての考え方も異なってきて当然なのかもなあと思います。

ただ、私は「ネットで読む小説」と「紙媒体小説」は今後違うものになるのではないかと思っています。というよりも、違うものになるよう期待しているといったほうが正しいかもしれません。
せっかく新しい手法を手に入れたならば、従来の考え方にとらわれずに発揮させたほうがいいのでは?と考えています。たとえば簡単なものであれば、背景に文章にあった壁紙を使う場合など、紙媒体におけるような(文字だけの)小説でも漫画でも、あるいは絵本でもないものになるのではないかと(あえて分類するなら「装丁にこだわった小説」でしょうか)。

つい語ってしまいました。
Posted by 青星 at 2005年11月16日 13:09
>青星さん
こんにちは。興味深いご意見をありがとうございます。

> 意味段落を示すための行の空白をbrで示すのはなんとなく気持ち悪い

正直言いまして、この感覚もわかるんですよね……。仕事で書くHTMLでは、極力「行間を空けるためのbr要素」は排除するようにしています。
ただ、私の作風として「視覚的効果のための改行」を乱発してしまうので、機械的な変換がちょっとややこしく、手作業でやるのはめんどくさく、というのがジレンマです。

あとは、手作業でHTML化が苦にならない人はいいけれど、そうでない人も多いわけで(だから小人さんを開発したわけですけれど)そういう人にpとbrとdivの使い分けを強いるのは技術者の傲慢だよなぁという意識もあります。

> 小人さんで「1行あけたらpタグに」のリクエスト
ちらほらと上がっていた要望でしたので、現在製作中のver4.10で実装済です。
改行ごとに<p>〜</p>で囲む、改行は<br>にして指定した行数の改行をp要素の区切りにする、のどちらでもいけるようになっています。

> というのは、パラグラフの考え方自体がpタグを開発した文化と日本の文化と異なるように思いますので。

同感です。p要素はあくまでも英語のパラグラフ・ライティングに基いたものであって、日本語の散文にはなじまないと思うんですよね。

> ネット小説と紙の小説
私個人としては、「ネット小説」「ケータイ小説」と「ネットで発表される従来型の小説」に別れていくかなー、と予想しています。
Posted by 文月 at 2005年11月22日 10:02
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